[vol.19]ちっとも厳密でない良心をたよりに
『ripple letter』は、私たちを取り巻くあらゆる“関係性”に触れるニュースレターです。
何気ない日々の出来事や話題から想像を膨らませて、人と人、人と地域、人と社会の繋がりを感じられるストーリーや考察をお届けします。
Side Story
ちっとも厳密でない良心をたよりに
ほんとうならば今頃。配信を眺めつつ山用のバックパックにいそいそと荷物を詰め込んでいるはずだったのだ。苗場プリンスホテルの宿泊ツアーも友人が見事当選をもぎ取り、大雨の中を行軍のようにとぼとぼ歩いて乾いた地面を探しそっと体育座りをする必要もなく、潤沢に着替えを持ち雨に濡れれば即あったかいお風呂とふかふかのベッドに直行するなどして貴族のように楽しむはずだったフジロックフェス3日目。さんざん悩んで、行くのは取りやめにした。
ここ数日で、インターネットを通じてさまざまな立場からの訴えに目を通し、自分はどうするのか考えた。屋外とはいえ万単位の人が集まるこの催しに対しては、賛否両論ある、というか否のほうが多いだろう。しかしフェス自体は違法でもなければ国や自治体からの要請に反してもいない。運営も彼らが考えうる限りの対策をすべて講じて臨むと言っている。屋内のコンサートもいまや満杯に人を入れている。出演する人も運営する人も人生をかけて仕事をしている。そしてわたしにとってはこのライブに行くことは日々をなんとか乗り越えていくための希望、という程度には大切なことだ。
正直なところわたしは、オリンピック前に政府が何がなんでも感染を封じ込めることができればやれるかもしれない、けれどどうせ中止になるだろうと思っていた。だけど現実は、チケットをとったときの想像とは恐ろしいほどに異なる。開催が近づくにしたがって、状況は想像を遥かに超えて悪化し、しかしどうやら決行するつもりらしいということがわかってきて初めて、自分で参加するかどうかを決断しなければならない局面に立たされたわけだ。自分で決めるって、なんで苦しいんだろう。しかし、だって、だけど……。
堂々めぐりにめぐって、出した結論の決め手は、「自分の良心に従うか従わないか」だった。何がOKで何がNGなのか誰も決めてくれないし決められない今は、何を選択するにしてもそれしか方法はないのだということを思い知ってしまった。この良心だって、別に正しいわけじゃない。わたしの持っている良心なんて、たとえて言うならば見渡す限り車の見えない横断歩道を、自分だけしかいなかったら赤信号でも渡っちゃうけど子どもが近くを通りかかってたら青になるまで待つ。そのくらいのちっとも厳密じゃない良心だ。だけどそれを無視したら、実際は誰も困らないかもしれないけれど、自分の気持ちに引っかかりが残ってずっと気持ち悪いだろうなと思う。いま苗場入りしている人にだって良心はあって、賛否両論の否のほうが多いのはわかるけれども、それでもやはり彼らの選択には彼らの人生と良心が複雑に絡まっているのだから、簡単に否定することなんかできないのだ。
何年もずっと楽しみにしていたイベントを自分の判断でスキップすること。小さなことではあるけれど、これから先もきっと、こういう小さな小さな選択を一つひとつ、自分自身の選択として真剣に考えていかなければいけない時代になっている。
コロナ禍での世界的イベント開催国となってしまった今年は、今まで変だなと思っていたのに面倒だからと目を背けていたことのツケがすべて回ってきたかのようだ。もうこれまでと同じように知らん顔をしているわけにはいかない。けっこう心に疲れが溜まってきている気がするけれど、ひとまずフジロックの配信を眺めながらひととき英気を養うしかない。わたしたち昭和後期生まれ世代は時代の過渡期にあって価値観に引き裂かれ、その痛みに耐えるために感覚を鈍らせてきてしまったのではないかと、山積みのツケを見て絶望しかけているが、ここが最後の踏ん張りどころなのだろう。諦めずにちゃんと勇気を出さねばね。
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