[vol.16]PTAと犯罪ノンフィクション
『ripple letter』は、私たちを取り巻くあらゆる“関係性”に触れるニュースレターです。
何気ない日々の出来事や話題から想像を膨らませて、人と人、人と地域、人と社会の繋がりを感じられるストーリーや考察をお届けします。
Side Story
PTAと犯罪ノンフィクション
この春 娘が高校を卒業したのに伴い、わたしもPTA役員を卒業した。中高一貫校だったのでまる6年やっていた。6年間もPTA活動をやり続けたというとたいてい、正気かこの人という目でみられる。自分でもどうかしていると思う。
そもそものはじまりは中学の入学式で、知り合いが一人もいなかったため学校の情報を入手しようと思ってよくわからない余っていた委員に手を挙げ、呼び出された会議室に行ったらそこはPTA役員本部だった。なかば騙されたかたちで自分の軽率さを悔いたが、とはいえ中高ともなると活動もさほど苛烈ではなく、特にやめる理由もなかったのでつい続けてしまった。なんといってもわたしは閑人なのだ。
そしてPTAは、自分と異なる価値観のもと行動する人と接することができるいい機会だった。仕事で知り合う人や気のおけない友人とのあいだでは、だいたい価値観や目標設定は共有できているので選ぶプロセスも似通ってくるのだが、PTAはそうはいかない。25人くらいが全員フラットな中で意思決定をするにはどうするのが軋轢を生みにくいのか。学校や近隣住民、同窓会や後援会といったステークホルダーと良好な関係を保ちながら活動を進めるにはどんなことに気をつけるべきなのか。そういう視点でものごとを見ていると学べることは多かった。
PTA役員の面々もおおむね気のいい人ばかりであり、2年目あたりで真夜中に、こいつ次会ったら貴様ーー!と叫びながら胸ぐら掴んで詰め寄ってやると思ったことが一度だけあったが、次に会ったら相手がロブションのパンかなんか持ってきて懐柔してきたので実行には至らなかった。
しかしわたしの6年間のPTA生活はそのまま穏やかに終わることはなかった。最後の1年で、現れたのである。邪悪な者が。
その邪悪な者――仮に邪悪のJとでも呼ぼうか――は、少しずつ組織を蝕んでいった。公の場では決して発言することなく気の弱いふりをしていて、なにかと個別にLINEを送ってきた。このあいだの打ち合わせでの貴女の発言に対してだれだれさんが文句を言ってるんです、貴女やその同輩の人たちが怖くて発言できませんと言ってるんです、困った人たちですよね。と報告をしているようでいて暗にわたしが悪くて信頼されていないというイメージを植えつけていった。そしてJは、わたしだけはわかっているんですわたしにお任せいただければなんでもやります!と従順に振る舞った。
はじめのほうこそ、もしかしてわたしの態度が高圧的でみんな萎縮してるのかな、などと殊勝に反省したりしていたものの、ほどなく違和感があるのはJのほうだということに気づいた。Jが関わる案件はすべてトラブるからだ。こんなこと言われて困ってるんですヒロコさん、と相談されたことは、当事者に話を聞いてみるとたいていは意図を歪めて捉えられていて、まっすぐ考えれば2秒で解決することだった。もう少しこじれたケースでは、伝言ゲームでは埒があかないから関係者集めてミーティングしようと持ちかけると頑なに拒否された。それでも押して話し合おうとするといきなりガチギレして捨て台詞を残しLINEグループから勝手に退出してしまう。
閑人であるわたしはほとんどすべての案件の相談が来て駆り出され振り回されて、まあまあ疲弊していった。どうしてこんなに、さして難易度も高くない課題をJはこねくり回してみんなを困らせるのか。ふつうだったら心が折れたり病んだりするかもしれないが、わたしはわりと心が丈夫である。しかもJの行動言動を観察していると、どうもどこかで見たことがあると思い至った。そうだこれは、人を支配しようとする者の行動だ。
・あなたは嫌われていると吹き込んで孤立させる。
・何を言っても理屈が通じないと思わせ無力感をかきたてる。
・何かあるとガチギレして恐怖を喚起し、逆らえなくする。
ほらね。
犯罪ノンフィクション好きで北九州(※1)や尼崎(※2)の監禁事件の本などを読んでいたおかげで、わたしの頭の片隅には、支配したがる人の行動パターンが入っていた。自分と相手との関係性の結果がこうなっている、つまり自分にも原因があるかもしれないと思うと人は追い詰められていくが、単に相手の行動パターンがそういう類型なのだと認識できると関係性の泥沼から抜け出すことができる。まんまと支配の罠にはめられるところだった。あぶなかった。犯罪ノンフィクション好きで本当によかった。
とはいえ、JはたかだかPTA活動でなぜそこまでするのか。何がJをそこまで邪悪に駆り立てるのかは、依然としてよくわからない。ただJの主張を聞いていると、この人は自分の正しさを周囲に認めさせたいのだろうな、と思う。周りの人間はみな旧弊で浅薄で愚鈍であり、自分だけが世界を正しく捉えていると認めさせたくてしかたのないようにわたしには見えた。
自分の正しさを示すために相手を攻撃したくなったときは、Jのことを思い出してわが身を戒めよう、と思う。やはりPTAは学びが多い。
〈参考図書〉
※1 豊田正義『消された一家―北九州・連続監禁殺人事件』新潮文庫
※2 小野一光『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相 (文春文庫)』
Our Interest
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セブンティーンが月刊誌を終了。今後は「8月に開設予定のウェブサイトと合わせ、専属モデルやタレント、インフルエンサーなどがSNSで発信する情報で読者と繋がる「双方向のコミュニケーションの場」の提供を目指す」という。トレンドを作ってきた雑誌がなくなる寂しさはあるものの、このニュースを見たときに、形にこだわらず粛々とデジタル移行を水面化で進めてきた印象も強かった。さまざまな場所で次々とコンテンツが生まれていくこの世界で、月1回の発刊では、今のティーン文化の変化に追いつけないのだろうと思わされる。
2021/6/22 FASHIONSNAP.COM
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