『ripple letter』は、私たちを取り巻くあらゆる“関係性”に触れるニュースレターです。
何気ない日々の出来事や話題から想像を膨らませて、人と人、人と地域、人と社会の繋がりを感じられるストーリーや考察をお届けします。
Side Story
こんにちはTSUKUBA、そして市民のわたし
前回のわたしのコラムでは、コロナ禍のテレワーク定着をきっかけに千代田区内からつくば市への移住を決めたことを書いた。今回はその続きをお届けする。
簡単におさらいすると、わたしは千代田区・九段下にある鳥小屋のようなワンルームのためにバカ高い家賃を払うのが嫌になったのだ。せっかくオフィスまで歩いて行けるからここにしたのに、会社は「オフィスに来なくていい」という。
━━そうだ 家賃も安くて広い地域、に引っ越そう。
そこで、すぐに候補に挙がったのが埼玉県熊谷市と茨城県つくば市だった。
熊谷はすごくミーハーな理由だ。
この春にスタートした大河ドラマ『青天を衝け』にドハマりしてしまい、「日本近代経済の父」と呼ばれた渋沢栄一の故郷として熊谷が魅力的に描かれていたからである。仕事で埼玉に行ったときには、熊谷駅まで足をのばし、渋沢栄一の像を見たり、ゆかりの地をめぐったりしたほどだった。
熊谷といえば「日本一暑い街」としても知られる。大きすぎるマイナスポイントだったが、「大河ドラマを観て、渋沢を生んだ熊谷に決めた」という気まぐれエピソードが自分で気に入り、物件見学の予約まで入れていた。
…が、そうした中で、ある記事を読んだことがきっかけで事態は急変する。
記事によると、23区から地方に移住する人に対して国が「移住支援金」なるものを出すという。その金額は、家族がいる人で100万円、単身で60万円だ。
ただし、条件があった。移住先が、東京圏(神奈川・千葉・埼玉)は認められないのだ。つまり、埼玉県熊谷市は「地方」ではなく「東京圏」なので「移住」にあたらない。
かくして「移住支援金がもらえないから」という理由で移住を決めたのがつくば市だった。
なんと言っても決め手は、「つくばエクスプレスで秋葉原まで45分」というアクセスだろう。
いまは完全テレワークだが、東京五輪後は半蔵門のオフィスまで週2程度の出勤を求められる可能性があった。それでも1時間の通勤なら許容範囲だ。つくば駅は始発駅だから、座ってKindleで読書も楽しめる(ちなみに熊谷からオフィスまでは2時間半以上かかってしまう)。
茨城県といえば、都道府県の魅力度ランキングで最下位の常連だが、つくば市は子育て世帯にも大人気の街で、緑も多い。研究都市としても知られ、つい最近では世界最大手の台湾の半導体メーカーが、日本政府の助成を受けてつくば市に研究拠点を設置することでも大きなニュースになった。
あと美味しいパン屋さんが多いこともうれしい。
先日、つくば市を訪れて物件を見て回った。家賃は千代田区の半分なのに、広さは倍。駅からは少し離れているが、10年ぶりぐらいに自転車を買おうと思っている。
・・・
移住の相談に乗ってくれたのは、つくば市役所の広報戦略課の小林さんという男性。つくば市では移住相談は市の魅力をアピールする「広報」として位置付けているのだ。「移住先としてつくば市は魅力的」と口コミや報道を通じて広がれば、さらに移住したいと思う人も増える。
実は、市役所の小林さんも移住組だった。市内の各エリアの特徴や、移住支援金を確実に受け取るために申請時に注意すべきポイントなども伝えてくれた。携帯番号も教えてくれて、「困ったときは連絡ください」とまで。移住大国つくば市、おそるべし。
ちなみにつくば市では、国から割り振られた移住支援金の予算の上限に迫る勢いで移住者が増えているので、市で独自に補正予算を組んで移住支援金の制度を継続するという。
移住支援金を受け取るための最大の条件。それは「5年以上」住み続けることだ。
なので、わたしは30代の残りをつくば市民として過ごすことが決まった。他拠点生活を続けると思うが、住民票はつくば市に置くことになる。
生まれてから、堺→高松→長野→四谷→九段下→つくばと転々としてきたが、コロナ禍がなければ移住を考えることはなく、都内に小綺麗なマンションを購入していたかもしれない。
東京オリンピックが7月23日に開幕する。コロナの感染拡大を懸念して、わたしの周りでも開催期間中は東京の外に疎開するという人たちが増えている。
わたしは開幕式をつくば市のマンションで独り観ることになりそうだ。東京五輪は妻と高級ソファーで大画面で観る
…予定だったのが、叶わず独身。なので移住支援金も60万円です。
Our Interest
これからのローカルメディアと読者の関係
先週読んだ記事のなかで背中を強く押された気分になった1本を紹介したい。新聞の発行部数は右肩下がりで苦境が長年続いている。そんななか、読者の声に立ち戻って本当に求められる記事を掲載すること、そのシンプルな取り組みによってあらためて読者との良好な関係が生まれてきている。実直にやり続けることの価値が伝わってくる。そして、記事化にこだわらないという姿勢からも今後のメディアと読者の新しい関係のはじまりを感じる。
2021/6/1 XD立ち返った原点は、読者の声。「エリアの最強メディア」地方紙を“再発見”した西日本新聞『あな特』の実践
ユーザーと本当につながるために
7万字の書き下ろしでありながら、無料配布・公開で話題の一冊を読んだ。受信(聞くこと)の感度が下がったまま、求められないサービスを作り続け、発信ばかり力を入れる。思うようには普及せず、広報に責任が降りかかってくる。そんなよくある光景を一蹴する内容だった。いかに私たちが広聴を置き去りにして発展しようとしてきたか、その副作用がここにきて深刻化している。
2021/5/19 note(黒鳥社)『GDX:行政府における理念と実践』 若林恵が一挙7万字書き下ろした全公務員必読の"ガバメントDX"ハンドブック! プリント版とPDF版が6月1日より無料配布・公開!
[vol.14]こんにちはTSUKUBA、そして市民のわたし
[vol.14]こんにちはTSUKUBA、そして市民のわたし
[vol.14]こんにちはTSUKUBA、そして市民のわたし
『ripple letter』は、私たちを取り巻くあらゆる“関係性”に触れるニュースレターです。
何気ない日々の出来事や話題から想像を膨らませて、人と人、人と地域、人と社会の繋がりを感じられるストーリーや考察をお届けします。
こんにちはTSUKUBA、そして市民のわたし
前回のわたしのコラムでは、コロナ禍のテレワーク定着をきっかけに千代田区内からつくば市への移住を決めたことを書いた。今回はその続きをお届けする。
簡単におさらいすると、わたしは千代田区・九段下にある鳥小屋のようなワンルームのためにバカ高い家賃を払うのが嫌になったのだ。せっかくオフィスまで歩いて行けるからここにしたのに、会社は「オフィスに来なくていい」という。
━━そうだ 家賃も安くて広い地域、に引っ越そう。
そこで、すぐに候補に挙がったのが埼玉県熊谷市と茨城県つくば市だった。
熊谷はすごくミーハーな理由だ。
この春にスタートした大河ドラマ『青天を衝け』にドハマりしてしまい、「日本近代経済の父」と呼ばれた渋沢栄一の故郷として熊谷が魅力的に描かれていたからである。仕事で埼玉に行ったときには、熊谷駅まで足をのばし、渋沢栄一の像を見たり、ゆかりの地をめぐったりしたほどだった。
熊谷といえば「日本一暑い街」としても知られる。大きすぎるマイナスポイントだったが、「大河ドラマを観て、渋沢を生んだ熊谷に決めた」という気まぐれエピソードが自分で気に入り、物件見学の予約まで入れていた。
…が、そうした中で、ある記事を読んだことがきっかけで事態は急変する。
記事によると、23区から地方に移住する人に対して国が「移住支援金」なるものを出すという。その金額は、家族がいる人で100万円、単身で60万円だ。
ただし、条件があった。移住先が、東京圏(神奈川・千葉・埼玉)は認められないのだ。つまり、埼玉県熊谷市は「地方」ではなく「東京圏」なので「移住」にあたらない。
かくして「移住支援金がもらえないから」という理由で移住を決めたのがつくば市だった。
なんと言っても決め手は、「つくばエクスプレスで秋葉原まで45分」というアクセスだろう。
いまは完全テレワークだが、東京五輪後は半蔵門のオフィスまで週2程度の出勤を求められる可能性があった。それでも1時間の通勤なら許容範囲だ。つくば駅は始発駅だから、座ってKindleで読書も楽しめる(ちなみに熊谷からオフィスまでは2時間半以上かかってしまう)。
茨城県といえば、都道府県の魅力度ランキングで最下位の常連だが、つくば市は子育て世帯にも大人気の街で、緑も多い。研究都市としても知られ、つい最近では世界最大手の台湾の半導体メーカーが、日本政府の助成を受けてつくば市に研究拠点を設置することでも大きなニュースになった。
あと美味しいパン屋さんが多いこともうれしい。
先日、つくば市を訪れて物件を見て回った。家賃は千代田区の半分なのに、広さは倍。駅からは少し離れているが、10年ぶりぐらいに自転車を買おうと思っている。
・・・
移住の相談に乗ってくれたのは、つくば市役所の広報戦略課の小林さんという男性。つくば市では移住相談は市の魅力をアピールする「広報」として位置付けているのだ。「移住先としてつくば市は魅力的」と口コミや報道を通じて広がれば、さらに移住したいと思う人も増える。
実は、市役所の小林さんも移住組だった。市内の各エリアの特徴や、移住支援金を確実に受け取るために申請時に注意すべきポイントなども伝えてくれた。携帯番号も教えてくれて、「困ったときは連絡ください」とまで。移住大国つくば市、おそるべし。
ちなみにつくば市では、国から割り振られた移住支援金の予算の上限に迫る勢いで移住者が増えているので、市で独自に補正予算を組んで移住支援金の制度を継続するという。
移住支援金を受け取るための最大の条件。それは「5年以上」住み続けることだ。
なので、わたしは30代の残りをつくば市民として過ごすことが決まった。他拠点生活を続けると思うが、住民票はつくば市に置くことになる。
生まれてから、堺→高松→長野→四谷→九段下→つくばと転々としてきたが、コロナ禍がなければ移住を考えることはなく、都内に小綺麗なマンションを購入していたかもしれない。
・・・
東京オリンピックが7月23日に開幕する。コロナの感染拡大を懸念して、わたしの周りでも開催期間中は東京の外に疎開するという人たちが増えている。
わたしは開幕式をつくば市のマンションで独り観ることになりそうだ。東京五輪は妻と高級ソファーで大画面で観る
…予定だったのが、叶わず独身。なので移住支援金も60万円です。
これからのローカルメディアと読者の関係
先週読んだ記事のなかで背中を強く押された気分になった1本を紹介したい。新聞の発行部数は右肩下がりで苦境が長年続いている。そんななか、読者の声に立ち戻って本当に求められる記事を掲載すること、そのシンプルな取り組みによってあらためて読者との良好な関係が生まれてきている。実直にやり続けることの価値が伝わってくる。そして、記事化にこだわらないという姿勢からも今後のメディアと読者の新しい関係のはじまりを感じる。
2021/6/1 XD
立ち返った原点は、読者の声。「エリアの最強メディア」地方紙を“再発見”した西日本新聞『あな特』の実践
ユーザーと本当につながるために
7万字の書き下ろしでありながら、無料配布・公開で話題の一冊を読んだ。受信(聞くこと)の感度が下がったまま、求められないサービスを作り続け、発信ばかり力を入れる。思うようには普及せず、広報に責任が降りかかってくる。そんなよくある光景を一蹴する内容だった。いかに私たちが広聴を置き去りにして発展しようとしてきたか、その副作用がここにきて深刻化している。
2021/5/19 note(黒鳥社)
『GDX:行政府における理念と実践』 若林恵が一挙7万字書き下ろした全公務員必読の"ガバメントDX"ハンドブック! プリント版とPDF版が6月1日より無料配布・公開!